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■不登校の当院受診後治療成績  

〜登校再開はそれほど難しくない。〜

*右の『参考資料』を確認しながらご覧ください。




不登校への対応姿勢は大きく二つに分けられます。一つは「不登校を容認して、登校刺激を与えずに様子を見る」というもので、もう一つは「積極的に不登校に介入して、努力して克服する」という対応です。前者を「支持的(supportive)」な対応、後者を「指示的(directive)」な対応といいます。
久徳クリニックでは開院以来不登校に対しては指示的な対応を行っていますが、この対応は決して当院だけの特別なものではありません。図1にもあるように不登校が問題化し始めた昭和50年代前半には、医療現場においても支持的対応と指示的対応の両者が行われていたのです。
当時は不登校の全体像も良くわからず、様々な医療機関や公的および民間機関が独自に治療に取り組んでいたのが実情です。ですから不登校の定義や呼称も統一されていませんでした。現在では「不登校」と呼ばれていますが当時は「登校拒否」と呼ばれていたのもそのあらわれです。
さらには治療に長期間を要する上に改善や治癒の基準も定められていなかったため、不登校全体を総括した総合的な原因分析とか、支持的対応と指示的対応との治療成績の比較検討なども十分には行われず、「標準的な治療法」も確立されませんでした。その結果としていろいろな治療方針が存在したともいえます。情報が不足していて不登校の検討や評価そのものが困難だった時代ともいうことができます。

図2は昭和50年代以降の文部科学省の不登校に対する取り組みをまとめたものです。児童心理を専門とする医師の間でも見解が異なるという混沌とした状況の中で、それなりの方向性を示さなければならなかった文部科学省の苦悩は察して余りありますが、平成4年に文部科学省は「支持的対応」を推奨する方針を提言しています。
この提言は教育現場に大きな影響を及ぼしました。不登校への対応に苦慮していた教育現場では支持的な対応が文部科学省の「お墨付き」の下に一気に拡がりました。そしてこの対応姿勢は医療現場へも影響を与えたのです。文部省の提言が「理論的根拠」のような形になって医療現場でも支持的な対応姿勢が拡がっていきました。
そして約10年後の平成13年に初めての不登校の大掛かりな予後調査が文部科学省によって実施されました。この調査は不登校のまま中学校を卒業した生徒が20歳になったときの状態をアンケートにより調べたものですが、ほぼ健全な形で社会参加できていた人は全体の4分の1という結果でした。この結果を受けて文部科学省は平成15年には「不登校は様子を見ているだけでは改善しない」「状況に合わせて登校を促す」とそれまでの支持的な対応を見直す提言をしています。
以上が過去30数年来の我が国の不登校治療の流れといえます。

不登校への対応姿勢が混乱した原因の一つに不登校の全体像が適切に分析されなかったことが挙げられます。その最も顕著なケースがいわゆる「エジソンも不登校だった」という論理です。確かに歴史上の有名人で不登校(もしくは不登校傾向)だった人物は枚挙に暇がありません。エジソンを始めとしてアインシュタインやらチャーチルやら錚々たる人物が学校嫌いであったことはよく知られています。
これらの不登校に共通している事は「学校を超越している」という天才肌の価値観です。これらのケースでは「学校に意義を感じない、やめてしまっても未練はない、かえって気分はすっきりする」という考え方であることが多く、そうであれば登校しないことは当然の帰結といえます。学校が性に合わない彼らが「不登校」になるのはごく妥当な反応であり、「登校しないという自由を認めよう」「あなたはあなたでよいのだ」という言葉が文字通りの正論になるケースといえます。
このような「堂々たる不登校」が存在するのは明らかな事実ですが、現在我が国で問題となっている不登校ではこのタイプは少数派もしくはほとんど存在しません。このあたりの状況分析が十分でないことも我が国の不登校への対応が混乱した原因の一つであると私たちは考えています。

図3は当院で用いている不登校の分類です。私たちが治療の対象と考える不登校は図3のAとBに該当する不登校です。各項目の詳細な解説はここでは割愛しますが、「学校に行きたいが行けない、学校に問題はない」というタイプの不登校であれば必ずBの「人間形成障害型の不登校」のいずれかのパターンに該当するはずです。

図4
は人間形成障害型の不登校に対する久徳クリニックの考え方です。久徳クリニックではこの人間形成医学の立場に立って、「本人をたくましい青年に育て上げ、最終的には頼もしい親になりうるまでの成熟を図る」ことが不登校の治療そのものであると考えています。
人間形成障害方の不登校に対しては「登校させるための治療」は特に必要ではありません。それよりも本人の「たくましさ」を伸ばして「年齢相応に頼もしい状態」に本人を成長させれば自然に登校再開できるのです。この治療法を当院では「総合根本療法」と呼んでいます。専門的には環境調整療法と認知行動療法を組み合わせた治療法といえます。

治療成績については定期的に集計していますが、ここでは、昭和59年、平成14年、平成20年に調査した治療成績を示します。昭和59年の調査は過去5年間、平成14年は過去3年間、平成20年は過去4年間の受診患者さんで集計しています。
図5〜7は、患者さんが当院受診前に受けていた指導を集計したものです。
昭和59年(図5)には総数304名の患者さんが当院受診前に延べ487ヶ所の施設へ相談に訪れています。平成14年(図6)では174名、延べ268件、同20年(図7)では179名、延べ215件ということになります(なお平成20年調査の総受診者数は220名でしたが、そのうち41名については当院受診前の相談状況についての聞き取りができておらず、ここでの数字は179名になっています)。
相談先の内訳はグラフ下部に表示してあります。昭和59年では、医療機関65ヶ所、児童相談所104ヶ所、教育センター186ヶ所などであり、平成14年からはスクールカウンセラーとかフリースクールも相談先に加わっています。
指導内容の分類は、「登校刺激を与えない」「行く気になるまで様子を見る」などを「支持的対応」、「いやがっても頑張らせる」「手伝いなどをさせて日中暇にさせない」などを「指示的対応」、「精神科を受診するべき」「施設入所がよい」などを「他施設紹介」、「話を聞くのみで具体的な指導なし」を「指導なし」、それ以外を「その他」をとしています。
それぞれの項目の全体での割合は、昭和59年の調査では「支持的対応」69.3%、「指示的対応」13.7%、「他施設紹介」1.2%、「指導なし」7.8%、「その他」8.0%でした。平成14年の調査では「支持的対応」72.0%、「指示的対応」5.2%、「他施設紹介」1.9%、「指導なし」10.1%、「その他」10.8%でした。当院受診前の指導の7割までを支持的な指導が占めていたといえます。
平成15年に文部科学省は「不登校は様子を見ているだけでは改善しない」と認識を改め、「必要に応じて登校を促す」ようにと方針を変更しました。
その結果、平成20年の調査(図6)では指導内容に大きな変化が現れました。「支持的対応」48.9%、「指示的対応」5.1%、「他施設紹介」2.8%、「指導なし」18.1%、「その他」25.1%という結果であり、平成14年までは7割に達していた支持的対応が大幅に減少しました。特に児童相談所と教育センターで著明に減少しています。理由は良くわかりませんがスクールカウンセラーではほとんど減少していませんでした。
支持的対応の減少分だけ指示的対応が増えたかといえばそうではありませんでした。指示的対応は却って少なくなっています。そして「指導なし」と「その他」が大きく増加していました。「指導なし」は「ただ話を聞いてくれるだけ」という状況であり、「その他」の中にはサプリメントとか海外留学、親の子育て教室などの民間療法(?)が挙げられていました。

表1は昭和59年の調査以降の当院の不登校治療成績の推移です。表の見方について昭和59年のデータを用いて説明しましょう。
昭和59年の調査では「総受診者数」は304名です。そしてそのうちの「治療継続例」は169名(55.6%)でした。治療中断例は135名です。この135名中124名が外来通院中に治療を中断されており、そのうちの94%までが4回以内で通院を中断されていました。
この124名の方へ郵送法でアンケートを行い治療中断の理由について調査し、98名の方から回答をいただきました。
治療中断の理由の第1位は「普通に登校できるようになったから(34名)」であり、次いで「遠方のため(18名)」、「本人が嫌がる(12名)」、「治療方針があわない(7名)」、「待ち時間が長い(7名)」、「経済的理由(5名)」、「すぐ治してもらえなかった(2名)」、「その他(11名)」でした。4回以内の通院でも約35%までは登校を再開できており、登校再開自体はそれほど困難ではないことがこの結果からもわかります。
総受診者数から治療中断例を引いた169名の患者さんが治療継続例になります。
この169名の治療結果は表の通りです。問題なく登校を再開できた例が156例(92.3%)、登校できない例は1例(0.6%)でした。
「その他」の項目には精神病などの他科疾患だった例や治療方針を変更して登校再開を目指さなくなった例などが含まれます。昭和59年の調査では6例(3.6%)の患者さんがこれに該当しました。
169例の「治療継続例」から「その他」の6例を引いた163例が「登校再開を目指して治療を継続した患者さんの実数」ということになります。そして昭和59年の調査ではその内の156例(95.7%)までが問題なく登校を再開できたということになります。
同様に表を見ていけば、平成14年の治療成績は次のようになります。
「総受診者は174名。そのうちの72%までは受診前には支持的な指導を受けていたが登校再開は叶わなかった。受診後登校再開を目指して治療を継続した例は105名であり、その内の83名(79.0%)までが問題なく登校できるようになった。登校再開できなかった例は5名(4.8%)であった」という治療成績が平成14年の調査結果になります。
昭和59年と平成14年の治療成績を比較すると「問題あるが登校」と「その他」が増加していることがわかります。そしてこの傾向は平成20年の調査で顕著でした。
平成20年の調査では、とりあえず登校を再開できた例まで含めれば、97.2%までが登校再開できており「登校できない」例は3名(2.8%)にすぎませんでした。しかし「問題あるが登校」と「その他」が大きく増加しています。この二つの項目の大幅な増加が平成20年の調査では特徴的でした。
平成20年の「問題あるが登校」には、時々欠席するような不安定な例とか、登校に親の付き添いを必要とする例などが含まれます。入院していれば病棟からは普通に登校できるものの自宅へ外泊すると登校できなくなる子も6名いました。
26名の「その他」の内訳は、「現状是認」11名、「進路変更」9名、「他科疾患」4名、「検査入院のみで治療を行わず退院」1名、「不明」1名というものでした。
「現状是認」は不登校を「よし」として是認し登校再開を目指すことはしないという方針であり、「進路変更」は登校再開を目指すよりも通信制への転校や中退して働くことを選択するという考えです。この二つの項目は平成20年の調査で明らかに増加していました。
平成20年の治療成績は「総受診者は220名。その内の49%が当院受診前に支持的な指導を受けていた。登校再開を目指して治療を継続した例は108名であり、その内の73名(67.6%)が問題なく登校できるようになった。登校再開できなかった例は3名(2.8%)であった」「『問題あるが登校』と『その他』の増加が明らかであり、それぞれ昭和59年の8倍と5.3倍であった」ということになります。この「問題あるが登校」と「その他」の増加が最近の不登校の大きな特徴のようです。

以上の結果から久徳クリニックでは不登校について次の様に考えています。
「不登校は必ず立ち直るから様子を見ていれば良い」という考え方は明らかに間違っています。平成13年の文部科学省の大規模調査の結果からも、平成19年の愛知県のひきこもり対策検討会議の調査からも、中高生の不登校が成人後のひきこもりのリスクファクターの一つであることは間違いのない事実といえます。現時点では不登校に対して「様子を見る」事が好ましいと判断しうる理論的根拠(エビデンス)は存在しないのです。
学校側に明らかな問題は無く、犯罪に類するようなレベルのいじめも無く、本人が学校に行きたい、行けるようになりたいと希望しているのであれば、その不登校に対して「様子を見る」という方針を勧めるのは指導する側の怠慢といえます。本人が学校(学歴)に対してなんら価値観を感じず意義を認めず、全く学校に未練もないという状況であれば話は別ですが、そうでなければ様子を見るよりも登校再開に挑戦するべきと考えます。
登校を強制するのが好ましくないように、「学校に行けるようになりたい」という本人の意向に反して「登校しないこと」を勧めるのも「間違った押し付け」になります。学校に行けるようになりたいと望む子に対して「無理をすることはない」と休むことを勧めるのは、改善の可能性がある不登校から改善の可能性を奪ってしまうことにもなりかねません。本人が登校再開を望むのであればその希望が叶う方向へ向けての助言と指導を行う事が「大人の役割」であると考えます。
更に、登校を再開するという目標を定めて治療を行った場合には登校再開はそれほど難しくありません。これも私たちが積極的に登校再開を目指す理由の一つです。
当院受診前には様子を見ていて登校再開に至らなかった患者さんであっても、方針を変更して登校再開を目指す治療を継続できれば2〜3ヶ月で約7割(平成20年のデータ)までが問題なく登校できるようになります。ここまで簡単に登校再開できるのであれば「様子を見る」必然性は全くありません。それどころか治療開始を遅らせて改善を遅らせると考えれば却って有害であるともいえます。
以上のような理由から私たちは「学校に行きたい」という希望があるのであれば登校再開に向けて挑戦する方が悩みが早く解決できるという面からも現実的であると考えています。特に小中学生の不登校は「義務教育終了までに」解決を図るべきであると考えています。何度も言うようですが不登校に対して「様子を見る」ことが好ましいとする理論的根拠はないのです。

以上の内容は、第8回日本小児心身医学会東海北陸地方会(平成20年3月)、第9回日本小児心身医学会東海北陸地方会(平成21年3月)、第65回日本心身医学会中部地方会(平成21年5月)などで発表したものです。


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