不登校に関しては、さまざまな立場の人たちによるさまざまな意見が氾濫しています。
平成4年3月に文部科学省は「不登校は病気ではなく誰にでも起こりうる」、「登校刺激が状況を悪化させることもある」「子供のエネルギーがたまるまで待つことが好ましい」「登校を促すよりは居場所を作るべきである」と提言しました。その結果、民間のフリースクールや公的な通所施設、適応指導教室などの様々な受け入れ施設が開設され、「登校刺激を与えずに見守る」という対応が一般化しました。
そして、私たちの調査では、これらの施設の約7割までが、不登校の相談に対して、「本人の意思を尊重して、登校しろとは言わないように」「登校刺激を与えてはいけません」「行く気になるまで様子を見ましょう」「好きなことをさせて下さい」という指導を行っていました。この傾向は特に民間施設において強いようです。
平成14年に国立教育政策研究所が初めて行った全国の不登校児受け入れ施設の意識調査では次のような結果が出ています。
「学校以外の学び舎に長期間いることは望ましくないか?」との問いに対して、「とても+ややそう思う」との回答は公立の適応指導教室では66%、民間施設では14〜26%でした。
「子供が幸せになれるなら学校に行かなくてもかまわないか?」との問いに対しては公立では34%、民間では68〜87%までが「とても+ややそう思う」と回答しています(朝日新聞・平成15年2月26日)。
同じころ、フリースクールの草分けである、東京シューレの奥地圭子理事長は「学校を休むことを罪悪視せず、自分の心や体の欲求に素直になり、ゆっくりしたり充電する時間をもつことを子供のみなさんにはおすすめします」、「社会の偏見がまだあるにしても、30〜40年前のほとんどの不登校経験者は、学校に通い続けた方と同じように社会生活、家庭生活を送っています」とおっしゃっています(中日新聞・平成14年4月14日)。
民間の施設は「登校再開・学校復帰」よりも、不登校状態を是認して不登校状態のまま成長していくことを推奨するところが多いようです。
不登校を悩んで相談に行ったのに、「学校に行かないという自由も認めましょう」といわれ、適応教室やフリースクールに通うことが、「長期的に見て本当に子供たちのためになるのか?」という点についての十分な調査と議論が必要なのですがほとんど検討されていないのが現状です。
前述の国立教育政策研究所のアンケートでは、民間施設947ヶ所の40%弱がアンケートに回答しています。手間のかかるアンケートに回答している施設は不登校問題に熱心な施設とも考えられますが、このような施設でも一ヶ月あたり2〜4万円の会費が必要なようです。民間の施設は家賃などの運営費がかかりますから当然ともいえます。さらに回答した施設ではスタッフの4〜6割が無報酬のボランティアということですから相当に努力して運営している姿がうかがえます。
熱心な施設が頑張っている反面、「民間の施設は不登校児がいてくれるので成り立っている。立ち直ってもらうよりも不登校でいてくれた方がありがたいと考える不登校ビジネスになっているところもある」という意見もあります。
確かに私たちも「不登校相談所の講演会に行ったら、不登校を受け入れている高校の入学説明会のようだった」という話はしばしば耳にします。
通信制高校にもこの傾向があるのかもしれません。
ある不登校の学校相談会の資料では、過去10年間(平成13〜22年)で全国の通信制高校は119校から209校に増加しています。公立は70校から72校と横ばい状態ですが、私立高校では49校から137校と激増しています。関東地方の比較的大規模な私立通信制高校では1学年1500人の生徒が在籍していますが卒業するのは約1割とのことです。卒業率が3割を超える通信制高校は存在しないようです。
不登校についての「さまざまな立場の人たちによるさまざまな意見」の中にはこの「不登校ビジネス」も紛れ込んでいます。これも不登校が減少しない原因の一つになっているのかもしれません。
不登校の予後についての公的な調査はあまり多くはありませんが、それでもいくつかの報告があります。
平成4年3月に文部省が実施した「登校拒否の態様別指導方法のあり方に関する研究」では、「不登校は中学になると改善困難であり、平成2年度の中学登校拒否児の進路は、高校30%(そのうち41%が定時制・通信制)、専門学校15%、就職32%、無職23%」というものでした。同じ年度の中学生の高校進学率は92%ですから、進路に関してはかなりのへだたりがあるといわざるを得ません。
平成13年には文部科学省が「不登校に対する実態調査」を報告しています。これは初めての大がかりな実態調査であり、中学校を不登校のままで卒業した子が20才になった時の進路を調査したものです。その結果は次のようなものでした。
就職して働いている23%、何らかの学校に通っている14%、パートまたはアルバイトに従事40%(そのうちの9%は働きながら通学)、何もしていない23%。
この結果を元に文部科学省は「不登校児の4分の3までは、大人になった時には何らかの形で社会参加しているので不登校の予後はそれほど悪くない」と結論付けていますが、現実には「4分の1が何とか働く、2分の1はニートかフリーター、4分の1 がひきこもり」という状況のようです。
平成19年の愛知県のひきこもり対策検討会議の調査でも、20〜30才代のひきこもりの52.3%が中学から高校で不登校であったことが分かっています。
平成13年のデータを参考にしてかどうかは分かりませんが、文部科学省は平成15年3月に平成4年の提言を撤回しました。そして「見守るだけでは解決しない」「状況に応じて登校への働きかけをする」「社会的な自立を目指す」「ただ待つのではなく早期の対応を」と方針を変更しています。
そうこうしている内にも不登校は増加の一途をたどり、平成12年度には13万4千人に達しました。マスコミ報道では平成14年度から不登校は減少から横這い状態と言われていますが、現実には現在でも増加の一途をたどっています。
確かに、文部科学省の「学校基本調査」による「年間30日以上欠席している」不登校児は、平成19年度には小中合わせて12万9千人、平成21年度には12万2千人と平成12年度よりは減少していますが、平成2年ごろからは、登校しても教室に入らないという「保健室登校型」の不登校が増加しています。
文部科学省の「保健室利用状況調査」によれば、平成8年には小学校の37.1%、中学校の58.1%、高校の44.4%で保健室登校が認められ、人数は約1万人で平成2年の約2倍でした。
それが平成13年には小中学校で3万1千人、平成18年には3万8千人と著しく増加しています。発生率は小学校で千人あたり二人、中学校で千人あたり六人程度であり、小学校よりも中学校で3倍多く認められます。
この保健室登校までを不登校としてカウントすれば、平成13年度の小中学校の不登校児は約17万人、平成18年度では約16万5千人という数になります。これに高校生の不登校も加算すればいまや小中高の不登校児は20万人を突破していることはほぼ確実と思われます。
久徳クリニックでは開院以来一貫して、早期の登校再開を目指した治療を行っています。「様子を見る」のは「何もしない」のに等しい対応であると考えています。私たちが早期の登校再開を目指すのは次のような理由によります。
@様子を見ていても改善の保証はない。
「灯台」(トップページ→パブリシティー紹介で開けます)でもお話ししているように、不登校は「たくましい大人・社会人に成長していくためのトレーニング不足」ともいえますから、様子を見ていれば改善するという保証はありません。
さらには、将来、対人緊張から対人恐怖、神経症、性格障害、不安障害などの社会的自立に支障を来たす状態に進展し、ひきこもりに至る可能性も否定できませんから早期の改善が好ましいと考えます。
もともと「様子を見る」という対応には、「医学的に正しい」という根拠はありません。医療とは無関係な文部省の提言(平成4年)により、教育現場において一般的になった概念にすぎないのです。
そして平成15年には文部科学省もその提言を撤回していますから、現在では不登校に対して「様子を見る」という対応が適切であるという根拠は失われています。それにもかかわらず現在でも「様子を見るように」と指導されることが少なくないようです。
私たちは、本人に「学校へ行きたい」という気持ちがあるのであれば、「様子を見る」という指導は好ましくないと考えます。「学校に行きたいが行けない」というタイプの不登校では、年齢相応のたくましさが不足していることが原因であることがほとんどです。これらのタイプの不登校はたくましさを伸ばすことにより確実に改善に向かいます。
年齢相応のたくましさを伸ばす治療を始めるのに「様子を見たり、時機を見る」必要はありません。「できる時にできるところから始める」のが現実的であると考えます。
A体の病気による不登校もありうる
また、不登校の中には「たくましさ不足」が原因ではなく、何らかの体の病気で登校できなくなっているケースもあります。
私たちの経験では、体の病気として、脳腫瘍、腎炎、肝炎、貧血、偏食による栄養失調、喘息などがありましたし、自閉症、アスペルガー症候群、発達障害、注意欠損多動障害(ADHD)、学習障害、精神発育遅滞、てんかん、統合失調症などもありました。
これらの病気が原因で不登校になっている場合には、不登校の治療よりも元の病気の治療が優先されます。元の病気がよくなりさえすれば不登校も自然に改善し、早期の登校再開が可能になることも珍しくありません。このようなケースはもともと「不登校」と考えるべきではなかったともいえます。
不登校治療を始める前にはこれらの病気の存在を確実に見極める必要があります。その意味からも様子を見るのではなく早めに医療機関を受診することは大切といえます。
B「学校に行くこと」に意味があるのか?
たとえば明らかな「犯罪行為に近いいじめ」があり、そのために登校できないような場合は、無理をして登校を続けるのは好ましくありません。問題の解決を図ることが先になります。
「学校に行きたいが行けない、学校側に大きな問題はない」というタイプの場合は、「イヤな先生もイヤな奴もいるけど、学校に行くぐらいのことは平気」といえる位まで「生きるたくましさ」をのばし、「大人扱いに耐えうるたくましい青年」に成長させていくことが大切であると私たちは考えています。
私たちは不登校の治療は「学校へ行かせること・学校へ行けるようになること」が目的とは考えていません。ですから「学校へ行かせるため」の治療は(留年の危機などがある場合を除いて)行いません。「年齢相応に賢く頼もしく成長すること」を目標とし、「あなたも大人になったね」といえるようなたくましさを身につけることを目指して治療を行います。
そして年齢相応のたくましさが身についたときには、子どもたちは自然に当然のように何のストレスも無く登校を再会します。これは、学校へ行く覚悟ができたとか、学校へ行くことを納得したとか、学校へ行く勇気が出たなどというレベルの変化ではありません。「学校ぐらい平気」というレベルまでたくましさが充実した結果であり、それまでよりも一歩から数歩大人になった結果なのです。
登校再開を目指して努力することは、この、「たくましさを身につけるためのトレーニング」の第一歩になると私たちは考えます。
C登校再開はそれほど難しくない。
登校再開はそれほど難しいことではありません。私たちの平成20年の調査では、2〜3ヶ月の治療期間で不登校児の67.6%までは問題なく登校再開できています。極端な場合には二年間行けなかった子が初診の翌日から「全く普通に」登校再開したケースもあります。そして、問題は残されていても登校再開できたケースまでを含めれば、登校再開率は97.2%に達します。
ただしこの数字は、中途で治療を中断した例とか進路変更して登校再開を目指すことを取りやめた例、様々な理由によって治療方針を変更した例などは含まれていません(治療成績の詳細はこちら)。
学校に行けさえすればよいという訳ではありませんが、2〜3ヶ月でここまで改善するのであれば、「様子を見る」必然性はないと考えます。
D早い方が良くなりやすい。
平成4年と13年の文部科学省の調査結果からも「不登校のままで中学校を卒業すること」は好ましくないことが分ります。
さらには不登校やひきこもり状態が続くうちに、「行けなくて焦り、イライラする時期」から「一見落着いて見えるが常に学校や働くことを意識して情緒が不安定になる時期」に進み、その後「学校や働くことに対して(自分の将来に対して)完全に無関心になってしまう状態」に至る場合があります。
誰でも必ずこの経過を取るわけではありませんし、進み方も状況によって様々ですが、ただ、「自分の将来に対して無関心」になってしまうと治療は困難になります。
以上のような理由から、私たちは不登校全般に対しては「できれば1日でも早く」改善させた方がよいと考えています。特に小中学生の不登校は遅くとも中学卒業までには解決しておくべきであると考えます。
高校や大学の不登校、中退からひきこもりなどでは、まずは卒業を目指すこと、次いで20歳代後半までには心理的にも経済的にも自立できるところまでたくましさを充実させることが必要と考えています。
体の病気と同じように不登校でも「早期対応・早期改善」が好ましく、早期の登校再開もそれほど難しくはないのです。
E 様子を見ていて「手遅れ」になったらなんとも残念。
手遅れになるといっても命に関るわけではありませんが、私たちが最も慌てるのは留年のピンチに陥った高校生〜大学生の不登校です。
中学での不登校を改善させないままに高校へ進み、高校入学後も状況は改善せず「あと1週間で留年してしまう、留年は絶対に避けたい、何とかならないか」などという状況で受診された場合などには、治療を相当に急いでかつ確実に進めなければなりませんから治療する我々にとってもかなりのストレスにはなります。
最近の3年間でもこのようなケースは10数例あり、そのうちの7割までは順調に学校復帰できています。それでも3割程度は「間に合わずに」留年し進路を変更せざるを得ませんでした。
これらの進路変更を余儀なくさせられたケースであっても「もっと早く治療を開始できれば何とかなった」可能性は高い場合が多く、たかだか数ヶ月の受診の遅れで留年してしまうのはなんとも残念です。
以上のような考え方で、久徳クリニックでは不登校に対しては、「本人の適応能力(社会性)を改善させ、年齢相応のたくましさ、頼もしさを身につける」「一日でも早く年齢相応の対人適応、社会適応を成し遂げる」ことを目標とした治療を行っています。たくましさが年齢相応に充実すれば、子どもたちは放っておいても自然に健康に登校を再開します。「学校に行かせるための治療」、「学校に行けるようにするための治療」は特に必要ではないのです。
詳しくお知りになりたい方は、「ここまで治せる不登校・ひきこもり」をお読みください。
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