久徳クリニックでは、「喘息を根治させる」ことを目標にした「気管支喘息の総合根本療法」を行っています。この治療法は昭和35年頃に当時の名古屋大学医学部小児科講師であった久徳重盛により提唱された治療法です。
総合根本療法は相当効率よく喘息を治すことができる治療法ですが、この治療法を行うためには、気道炎症や気道過敏性などに対する身体医学的な喘息治療や減感作療法などのアレルギー対策にも十分に精通した上で、幼児期から老年期までの喘息の心理的諸問題への対応も必要になります。
この心理的問題への対応には乳幼児の発達心理学や心身医学的な知識なども必要になりますから、総合根本療法は身体医学的な喘息治療法に比べればかなり複雑な治療法といえます。
ここでは総合根本療法の基本的な考え方についてご説明します。現在の喘息治療の主流である「治す事はあきらめて吸入ステロイドでコントロールする」という方針とはかなり異なった考え方ですが、「喘息を治すための治療の基本」と考えてお読みください。
喘息の発作
喘息でよく知られている症状は、ゼイゼイ、ヒューヒューという喘鳴と呼吸困難を伴う「発作」です。
発作が起きているときの気管支では次のような異常が起きています。
- 気管支の収縮
気管支がけいれんを起こして細くなり、空気の通りが悪くなります。
- 気管支粘膜の浮腫
けいれんで細くなった気管支の粘膜がむくんで腫れあがり、空気の通りをさらに悪くします。
- 気管支分泌物の増加
気管支粘液の分泌が著しく増加します。これが喘息の「痰」になります。痰は収縮して細くなった気管支の通りをさらに悪くします。そのため、息をするたびに痰が震動してゼーゼー・ヒューヒューという音(喘鳴)が現われます。震動した痰が気管支を刺激しますから、頑固な「むせる」ような咳も現れます。
喘息の発作は「自分の気管支から湧いてくる痰に溺れている状態」ともいえるのです。
1から3の変化が一定以上に強くなると呼吸困難が現れます。呼吸困難の強さにより発作は次の4段階に分類されます。
ゼイゼイいうだけで苦しさのないものは「喘鳴のみ」という発作です。息苦しさがあっても横になれる程度のものが「小発作」、横になれず座ったほうが楽であれば「中発作」、動くのもつらいような発作は「大発作」と分類されます。
喘息の発作を薬を使って改善させたり予防する治療を「対症療法」といいます。「症状に対しての治療」という意味であって、喘息そのものを治す治療ではありませんから、いくら薬を使い続けても喘息を治すことはできません。この点はしっかりと理解しておく必要があります。
なぜ発作が起きるのか
喘息の患者さんの気管支は表面の粘膜細胞が剥離してはがれ落ち、皮膚でいえば「薄皮がむけてピリピリしているような過敏な状態」になっています。
この変化については相当に古くから知られていて、喘息のことを「剥離性気管支炎」と呼んでは?と提唱された時代もあります。現在のガイドラインで「気道の慢性炎症」と呼んでいるのはこの変化のことです。
この「気道の慢性炎症による過敏性の亢進」が喘息の発作の直接の原因です。アセチルコリンという薬で調べてみると、健康な人の千倍以上も敏感になっていることが分かっています。敏感な粘膜がさまざまな刺激に反応して収縮し痰が湧きだして発作が引き起こされるのです。
そして、この「さまざまな刺激」は「刺激ともいえないほどのわずかな変化」であることが特徴です。
たとえば、季節の変わり目・梅雨などの気候の変化、温度変化、寝入りばな、眠りが深くなる(深夜)、明け方、雨の前、台風、生理の前、運動、大声で笑う、緊張して話す、煙草の煙・香水などの臭い、などでも「刺激」となり発作を引き起こします。
また、週末にちょっと気がゆるむ、緊張する行事の後の「やれやれ」という気持、あわてて気をもむなどの「わずかな気分の変化」も発作を引き起こす「刺激」になりますし、幼児・小児では、弟・妹が生まれる、入園・入学、叱られる、母親の実家に行くなどの、日常生活の中のわずかな気分の変化も発作を引き起こす「刺激」になりえます。
アレルギーも「わずかな刺激」の代表的なものです。ダニ・ほこり・食物・動物の毛などさまざまな物質が発作の引き金になります。これらの物質は、「健常人であればまったく何の影響もないわずかな量」であっても、喘息の患者さんに発作を引き起こします。
「刺激ともいえないほどのわずかな変化」に反応して発作を引き起こすという、「とんでもなく敏感になった気管支」が喘息発作の原因です。ダニやホコリは発作の引き金ではあっても本当の原因ではありません。喘息発作は「ゾウに小石をぶつけたらひっくり返って気絶してしまった」ともたとえられるような気管支の過敏な反応なのです。
なぜ気道過敏性ができるのか(喘息の原因は?)
気道の慢性炎症は気道の過敏性を作り上げますから「発作の原因」であるとはいえますが、「喘息の原因」とはいえません。気道の慢性炎症を引き起こしている「原因」が本当の「喘息の原因」とみなされるべきなのです。
身体医学は、「喘息の本当の原因はわからない」としています。ですから2003年の厚生省の「喘息予防ガイドライン」にも、「喘息は病因の不明な体質的な疾患であり、病因の除去によって疾患の治癒を目指すことは困難である」と書かれています。
久徳クリニックでは、喘息の原因は「乳幼児期の育てられ方により、気管支の抵抗力を高め喘息やアレルギーを抑える自律神経やホルモンの働きが不安定になるような体質が作りあげられたため」と考えています。
妊娠中の赤ちゃんは羊水に浸かっていて一切空気には触れない生活を送っています。ところが出産後には一気に大気中での生活を強いられることになります。
赤ちゃんの皮膚と呼吸器は、乾燥に耐え、温度変化に耐え、さまざまな刺激に耐え、病原菌やダニやホコリのようなアレルゲンにも耐えていけるような「たくましさ」を備えなければならなくなります。皮膚と呼吸器は生まれてから「大気中での生活に適応できるように鍛えあげられることを必要とする」器官なのです。
この皮膚と呼吸器のたくましさの充実をバックアップするシステムがステロイドホルモン系とアドレナリン系のシステムです。そしてこのシステムが充実しないように育てられてしまうと、アトピー性皮膚炎や気管支喘息が発症するのだと私たちは考えています。(ここでは詳しく述べませんが私たちの調査では大人の喘息も6歳までの親子関係の影響を受けています)。
この考え方を「気管支喘息の総合医学説」といいます。詳しくは「喘息征服の五原則」をご覧ください。
自律神経と喘息
自律神経は内臓の働きを支配する神経で、交感神経と副交感神経の二種類があります。
交感神経からは発作を抑えるホルモンが分泌され、副交感神経からは発作を助長するホルモンが分泌されますから、自律神経の働きの良し悪しは喘息に極めて大きな影響を与えます。
春や秋などの季節の変わり目や、寝入りばな・明け方に起きる発作は自律神経性の発作であり、アレルギーが原因の発作ではありません。
また、自律神経の不安定さはアレルギー反応を悪化させます。
私たちの調査では、ホコリに対して同じ強さのアレルギーを持った喘息の患者さんにホコリを吸わせて発作を誘発した場合、アレルギーの強さは同じでも自律神経の乱れやすい患者さんではそうでない患者さんよりも3倍強く発作が現れました。自律神経の不安定さはアレルギーを増強するといえるのです。自律神経の不安定さは「ODテスト」という方法で調べます。
ストレスと喘息
ストレス(心因)も喘息に大きく関わります。心身医学では喘息は代表的な呼吸器の心身症と考えられていますが、身体医学では心因はほとんど無視されているのが現状です。
「喘息征服の五原則」のAにもあるように、小児喘息では患者さんの80%以上に心因が関わります。小学校入学以降に発症した小児喘息ではほぼ100%、成人発症型の喘息では70〜80%の割合で心因が関わっています。
夜間のみならず日中も発作が続く、もしくは夜よりも日中の方がひどくなりやすい、または、受験のプレッシャー・妊娠〜出産後・身内の病気や不幸、仕事が手いっぱいなどの「責任が重くなる」時に悪化する傾向があればこれらは心理的な発作といえます。
反対に、配偶者の死亡、子育てが終わる、定年、可愛がっていたペットの死亡(ペットロス)、自宅のローンが終わる、営業から総務に配属になるなどの「責任が減って張りが無くなって」から発症することも珍しくありません。
喘息に心因が関わっているかいないのかの最も簡単な判断法は、「吐く息が苦しいのか吸う息が苦しいのか」のチェックです。喘息は本来息が「吐きにくくなる」病気ですが、心因が関わる喘息では息が「吸いにくく」なります。
心因が関わっていれば必ず息が吸いにくくなるとはいえませんが、息が吸いにくいならその喘息には必ず心因が関わっているといえます。
喘息は本当に治せるのか?
喘息は決して「治らない病気」ではありません。昭和30年代までは小児喘息の約半数は大人になるまでに明らかに自然治癒していました。また、過去の文献を調べてみると大人でも自然治癒している人は珍しくありません。「自然治癒もありうる病気が治せないなどということはあり得ない」と私たちは考えています。
これらの自然治癒した人たちについて調べてみると、ほとんどの人が「生活の変化」によって改善しています。また、成人喘息では80%以上までの人が、生活の変化をきっかけとして発症していることもわかっています。
ですから、この「生活の変化による発症と治癒のメカニズム」を分析し応用すれば喘息を治すことも可能になります。そして喘息の自然治癒のメカニズムが理解できれば喘息の発症を予防することも不可能ではありません。
この考え方に基づいて開発された治療法が「総合根本療法」です。「喘息の根治を目指す」ための治療法としては、少なくとも現時点では最も優れた治療法であると私たちは考えています。
総合根本療法は、目先の発作を薬で抑える「対症療法」と、喘息の原因を取り去り喘息そのものを治していく「生活療法」から成り立っています。
対症療法はガイドラインも参考にして行いますが、生活療法は「喘息征服の五原則」に沿って行います。対症療法が総合根本療法の20〜30%、生活療法が70〜80%を占めます。
喘息は薬では治らない。
「自然治癒」もありうる病気であるにもかかわらず、喘息は薬では治りません。
現在喘息治療に使われている様々な薬は、喘息の発作を抑える対症療法の効能しか持っていません。ですから薬を使って発作が完全に治まったとしても、それで「喘息が治った」訳ではありません。薬を中止すれば再び発作が現れます。
喘息は「自然治癒もあるように治らない病気ではないが、薬で治すことはできない」病気の代表格です。このような病気は高血圧とか糖尿病、アトピー性皮膚炎、夜尿症など、喘息以外にもたくさんあります。話がそれるようですが不登校やひきこもりもこの範疇に入ります。自然治癒もあり得ますが薬では治らないという点で共通しているといえます。
高血圧とか糖尿病は生活習慣病とも言われますが実は喘息も生活習慣病の側面を持っています。ただこの生活習慣の影響が乳幼児期の親子関係や養育環境という極めて奥の深いレベルで複雑にかかわっているため、身体医学の知識だけでは到底対応できるものではなかったのです。
このような理由で、薬や手術などの「医療技術で体を治す医学」である身体医学では「喘息は治らない病気」とされてしまいました。これが「心」を診ることに重きを置かない身体医学の限界といえます。
そして現在では、吸入ステロイドを使用して発作を抑え「治すよりもコントロールする事を目指す治療」が喘息治療の最先端とされ、この治療法を広めることが「喘息専門医」の仕事になってしまいました。
喘息を専門領域とする心療内科の医師よりも身体医学の呼吸器科の医師の方がはるかに多いのですから当然の成り行きともいえますが、このようないきさつで喘息を治すことを考えない専門医が増えてきているのが現状です。現在の喘息治療の「ガイドライン」も喘息を治すことではなくコントロールすることを目標にして作られています。
総合根本療法の治療のゴール
久徳クリニックでは次のような状態になった時に「喘息が治った」と考えます。
- 数年以上にわたって喘息発作(喘鳴や呼吸困難)は現れず、現れたとしても「咳その他のごく軽い症状」にとどまり、
- 薬を使わないか、簡単な鎮咳剤か拡張剤で治まり、
- 年間を通して健常人と同じ生活が可能で、
- 肺機能は正常か、リモデリングを後遺症として残すが、気道過敏性は消失もしくは咳にとどまる程度に低下している(=症状が出たとしても咳喘息程度)。
- アフターケアを行って将来の見通しを立てた場合に、悪化または再発する可能性が皆無であるか極めて少ないと判断される。
指示に従って生活療法を実行していただければ、約80〜90%の患者さんは、治療開始後1〜3年で3に達し、5のアフターケアに進めます。そしてアフターケアに入った患者さんの44%は「メサコリン吸入試験」での、気道過敏性の消失が証明されています。
いつまでに治すのがよいのか
喘息の仕組から考えれば、3歳未満の子どもの喘息は(治療開始年齢にもよりますが)、できれば3歳、遅くとも入学までには治し切ることをお勧めします。この時期は生活療法への反応が極めてよい時期なので、効率よく生活療法を実行できた時にはしつこい喘息も「朝日に消える朝霧のように」治っていきます(トップページ→ぜんそくジャーナル→142号「【手記】Y君のお母さん」などもご覧ください)。
6歳未満の喘息は入学までに治しきる事をお奨めします。この時期も比較的生活療法への反応が良い時期なので入学後よりは治療そのものは容易です。入学までに治してしまえば、喘息体質が完全には作りあげられずにすみますから、生涯にわたっての再発リスクが少なくなります。
6歳未満という治しやすい時期に喘息の治し方を覚えることは、ご両親にとっても良い経験になります。子どもを喘息にしない育て上げ方を覚えることは、子どもを不登校や引きこもりにしない育て方の一部を知ることにもなりますから、その後の子育てに大いに役に立つはずです。
小学生の喘息は10歳から卒業までには治した方がよいと考えています。
昭和30年代までは小児喘息は「入学すれば治る」といわれていました。そして確かに入学をきっかけに治っていく子供が多かったのです。
ですから小学校に入学しても治っていかない場合には、自然治癒の可能性は低下し成人喘息に移行する確率が高まったと考え、積極的に治す治療に取り組むべきと考えます。
また、気道のリモデリングは喘息発症後3年を経過した頃から始まり、成人喘息では約4割の患者さんに認められます。リモデリングが起きてしまうと喘息は完全には治せなくなりますから、遅くとも発症後3年以内には治療を開始することが好ましいといえます。
以上のような理由から、久徳クリニックでは、乳幼児の喘息は3歳から小学校入学までに、小学校低学年の喘息は10歳までに、小学校高学年から中学生の喘息は10歳から遅くとも15歳までに、大人の喘息は治療開始後(アフターケアも含めて)3〜5年で治しきることを目標としています。そしてこの目標の達成は決して困難ではありません。
治らない喘息もあるのか?
喘息が治らなくなるのは、次のような場合です。
第一に、全身性のステロイドホルモンを内服や注射で長期間使用し、体内のステロイドホルモン分泌能力が低下してしまった場合です。この状態を「副腎機能不全」といいます。
第二に、リモデリングが起きてしまった場合にも、「完全」には治せなくなります。
第三に、いろいろな事情で総合根本療法が実行できない場合にも治すことはできなくなります。この場合は「治らない」のではなく「治せない」「治さない」ということになるケースが多いようです。
治療方針についての具体的な考え方
現在日本では、年間3〜4千人の患者さんが喘息で亡くなっていますから、喘息を軽く考えるのはよくありません。
それでも、すべての患者さんが重症というわけでもありませんから、実際の治療に際してはいくつかの選択肢が考えられます。
代表的なものとしてはとりあえず次の3つがあげられます。
- 調子が悪く苦しい時だけ治療する。
軽症の場合は「悪い時だけ薬でおさえて」と考えたくなるのは人情ですが、これはあまりお勧めできません。
軽い発作であっても、繰り返しているうちにリモデリングが進み難治化していくこともあります。また、中程度以上の発作が続いていても体が低酸素状態に慣れてしまうことがあります。こうなると、息切れはしますが安静時には苦しさを感じなくなりますから、患者さんが「調子は悪くない」と誤解してしまうことがあります。この場合は突然死に結びつくこともあります。
- 生活療法は行わずに、対症療法だけで様子を見る。
喘息を「治す」事は考えず、吸入ステロイドなどを続けて「喘息をコントロールする」「リモデリングの発生を防ぐ」「喘息死を防ぐ」ことを目指します。
身体医学的な対症療法のみの治療法ですから薬を使い続けることになりますが、喘息を治すことを考えなければこの治療法が「最善」といえます。
ガイドラインでもこの方法が基本とされていますから、現在では大多数の「喘息専門医」がこの治療法を推奨しています。
久徳クリニックでも、総合根本療法を行わない場合にはこの治療法をお奨めしています。
- 3〜5年で「喘息を治しきる」ことを目指す。
久徳クリニックのお奨めプランです。総合根本療法によって喘息の根治を目指します。
ここでは例として3つの選択肢を挙げましたが、現実に自分自身の喘息をどのように治療したいのかという治療方針の最終決定権は患者さん側にあります。私たち医師は、根治を目指す治療をお勧めはしますが押し付けはできません。喘息治療は基本的な治療方針を患者さんに決めていただくところから始まるのです。
久徳クリニック以外での実施医療機関
総合根本療法については昭和30年代から学会や論文などで発表しオープンにしていますから、久徳クリニックの「門外不出の秘密の治療」などというわけではありません。しかし冒頭でも述べましたように心理的対応への習熟の困難さから、久徳クリニック以外で総合根本療法を行っている(または過去において行った)医療機関は極めて少数しかありません。
私たちが調べた限りでは大学病院などの大きな施設で行われていたのは岩手医科大学小児科だけでした。岩手医科大学では昭和50年ごろに根本紀夫助教授らが中心となって入院療法として実施されていたようです(日本医事新報2744号)。
個人では、東京のオボクリニックの於保哲外先生、名古屋の松川クリニックの松川武平先生、福岡博多の小宮クリニックの小宮豊先生、沖縄の大宜見義夫先生、などの先生方が総合根本療法を勉強されています。また、大阪のとよしま小児科の豊島協一郎先生も当院とは異なる独自の立場に立って「気管支喘息の総合治療」を提唱されています。