喘息ってどんな病気?・久徳クリニックの考え方
喘息の発作
喘息でよく知られている症状は、ゼイゼイ、ヒューヒューという喘鳴と呼吸困難を伴う「発作」です。
発作が起きているときの気管支では次のような異常が起きています。
@ 気管支の収縮
気管支がけいれんを起こして細くなり、空気の通りが悪くなります。
A 気管支粘膜の浮腫
けいれんで細くなった気管支の粘膜がむくんで腫れあがり、空気の通りをさらに悪くします。
B 気管支分泌物の増加
気管支粘液の分泌が著しく増加します。これが喘息の「痰」になります。痰は収縮して細くなった気管支の通りをさらに悪くします。そのため、息をするたびに痰が震動してゼーゼー・ヒューヒューという音(喘鳴)が現われます。震動した痰が気管支を刺激しますから、頑固なむせるような咳も現れます。
喘息の発作は「自分の気管支から湧いてくる痰に溺れている状態」ともいえるのです。
@からBの変化が一定以上に強くなると呼吸困難が現れます。呼吸困難の強さにより発作は次の4段階に分類されます。
ゼイゼイいうだけで苦しさのないものは「喘鳴のみ」という発作です。息苦しさがあっても横になれる程度のものが「小発作」、横になれず座ったほうが楽であれば「中発作」、動くのもつらいような発作は「大発作」と分類されます。
なぜ発作が起きるのか
喘息の患者さんの気管支は表面の粘膜細胞が剥離してはがれ落ち、皮膚でいえば「薄皮がむけてピリピリしているような過敏な状態」になっています。
この変化については数十年前から知られていて、喘息のことを「剥離性気管支炎」と呼んでは?と提唱された時もあります。ガイドラインで「気道の慢性炎症」と呼んでいるのはこの変化のことです。
この「粘膜の慢性炎症による気道過敏性の亢進」が喘息の発作の直接の原因です。アセチルコリンという薬で調べてみると、健康な人の千倍以上も過敏になっていることが分かっています。敏感な粘膜がさまざまな刺激に反応して収縮し痰が湧きだして発作が引き起こされるのです。
そして、この「さまざまな刺激」は「刺激ともいえないほどのわずかな変化」であることが特徴です。
たとえば、季節の変わり目・梅雨などの気候の変化、温度変化、寝入りばな、眠りが深くなる(深夜)、明け方、雨の前、台風、生理の前、運動、大声で笑う、緊張して話す、煙草の煙・香水などの臭い、などでも「刺激」となり発作を引き起こします。
また、週末にちょっと気がゆるむ、緊張する行事の後の「やれやれ」という気持、あわてて気をもむなどの「わずかな気分の変化」も発作を引き起こす「刺激」になりますし、幼児・小児では、弟・妹が生まれる、入園・入学、叱られる、母親の実家に行くなどの生活の変化に伴うわずかな気分の変化でも発作を引き起こす「刺激」になります。
アレルギーも「わずかな刺激」の代表的なものです。
ダニ・ほこり・食物・動物の毛などさまざまな物質が発作の原因になります。これらの物質は、「健常人であればまったく何の影響もないわずかな量」であっても、喘息の患者さんに呼吸が止まるほどの発作を引き起こすことがあります。
喘息発作は「ゾウに小石をぶつけたらひっくり返って気絶してしまった」ともたとえられるような気管支の過敏な反応なのです。
なぜ気道過敏性ができるのか(喘息の原因は?)
「気道の慢性炎症」は「発作の原因」にはなりますが、「喘息の原因」ではありません。この慢性炎症を引き起こしているものが「喘息の本当の原因」と考えるべきなのです。
身体医学は、「喘息の本当の原因はわからない」としています。ですから2006年の厚生省の「喘息予防ガイドライン」にも、「喘息は病因の不明な体質的な疾患であり、病因の除去によって疾患の治癒を目指すことは困難である」と書かれています。
久徳クリニックでは、喘息の原因は「乳幼児期の育てられ方により、気管支の抵抗力を高め喘息やアレルギーを抑える自律神経やホルモンの働きが不安定になるような体質が作りあげられたため」と考えています。
妊娠中の赤ちゃんは羊水に浸かっていて一切空気には触れない生活を送っています。ところが出産後には一気に大気中での生活を強いられることになります。
赤ちゃんの皮膚と呼吸器は、乾燥に耐え、温度変化に耐え、さまざまな刺激に耐え、病原菌や抗原に耐えていけるような、「たくましさ」を備えなければならなくなります。このたくましさを備える成長をバックアップするシステムがあり、このシステムが充実しないように育ってしまうと、アトピー性皮膚炎や気管支喘息が発症するのだと私たちは考えています。(ここでは詳しく述べませんが私たちの調査では大人の喘息も6歳までの親子関係の影響を受けています)。
この考え方を「気管支喘息の総合医学説」といいます。詳しくは「喘息征服の五原則」をご覧ください。
自律神経と喘息
自律神経は内臓の働きを支配する神経で、交感神経と副交感神経の二種類があります。
交感神経からは発作を抑えるホルモンが分泌され、副交感神経からは発作を助長するホルモンが分泌されますから、自律神経の働きの良し悪しは喘息に極めて大きな影響を与えます。
春や秋などの季節の変わり目や、寝入りばな・明け方に起きる発作は自律神経性の発作であり、アレルギーが原因の発作ではありません。
また、自律神経が乱れやすいとアレルギー反応が増強することもわかっています。
私たちの調査では、ホコリアレルギーの患者さんにホコリのエキスを吸入させて発作を誘発した場合、アレルギーの強さは同じでも、自律神経の乱れやすさを持った患者さんの方が持たない患者さんよりも3倍も発作が強くなるという結果がでています。自律神経の乱れや不安定さはアレルギーを増強するといえます。
自律神経の検査は「ODテスト」という方法で行います。
ストレスと喘息
ストレス(心因)も喘息に大きく関わっています。「喘息征服の五原則」のAにもあるように、小児喘息では患者さんの80%以上に心因が関わっています。小学校入学以降に発症した小児喘息ではほぼ100%、成人発症型の喘息では70〜80%の割合で心因が関わっています。
日中も夜も同じように発作が現れる、もしくは夜よりも日中の方が発作が強く現れる、または、受験のプレッシャー・妊娠〜出産後・身内の病気や不幸、仕事が手いっぱいなどの「責任が重くなる」時に悪化する傾向があれば、これも心理的な悪化です。
心身医学領域では、喘息は代表的な呼吸器の心身症と考えられています。ですから心身医学や人間形成医学では、心因にも配慮した喘息治療が「常識」とされていますが、身体医学では心因はほとんど無視されているのが現状です。
喘息に心因が関わっているかいないのかの最も簡単な判断法は、「吐く息が苦しいのか吸う息が苦しいのか」のチェックです。喘息は本来は「息が吐きにくくなる」病気ですが、私たちの経験では心因が関わった場合には「息が吸いにくく」なるようです。
喘息は本当に治せるのか?
喘息は決して「不治の病」ではありません。昭和30年代までは小児喘息の約半数は大人になるまでに明らかに自然治癒していました。また、過去の文献を調べてみると大人でも自然治癒している人は珍しくありません。「自然治癒もありうる病気が治せないなどということはあり得ない」と私たちは考えています。
これらの自然治癒した人たちについて調べてみると、ほとんどの人が「生活の変化」によって改善していることがわかっています。また、成人喘息では80%以上までの人が、生活の変化をきっかけとして発症していることもわかりました。
ですから、この「生活の変化による発症と治癒のメカニズム」を分析し治療に応用すれば喘息を治すことも可能になります。
この考え方に基づいて開発された治療法が「総合根本療法」です。「喘息の根治を目指す」ための治療法としては、少なくとも現時点では最も優れた治療法であると私たちは考えています。
総合根本療法は、目先の発作を薬で抑える「対症療法」と、喘息の原因を取り去り喘息そのものを治していく「生活療法」から成り立っています。
対症療法はガイドラインも参考にして行いますが、生活療法は「喘息征服の五原則」に沿って行います。対症療法が総合根本療法の20〜30%、生活療法が70〜80%を占めます。
総合根本療法の治療のゴール
久徳クリニックでは次のような状態になった時に「喘息が治った」と考えます。
@ 数年以上にわたって喘息発作(喘鳴や呼吸困難)は現れず、現れたとしても咳その他の「軽微」な症状にとどまり、
A 薬を使わないか、簡単な鎮咳剤か拡張剤で治まり、
B 年間を通して健常人と同じ生活が可能で、
C アフターケアを行って将来の見通しを立てた場合に、悪化または再発する可能性が皆無であるか極めて少ないと判断される。
指示に従って生活療法を実行していただければ、約80〜90%の患者さんは、治療開始後1〜3年でBに達し、Cのアフターケアに進めます。
喘息は薬では治らない。
「自然治癒」もありうる病気であるにもかかわらず、喘息は薬では治りません。
現在喘息治療に使われている様々な薬は、喘息の発作を軽くするか抑える力しか持っていないのです。ですから薬を使って発作が軽くなったり完全に治まったとしても、それで「喘息が治った」訳ではありません。ですから薬を中止すれば再び発作が現れます。
このような理由で、薬で体を治す医学である「身体医学」では「喘息は治らない」とされてしまいました。これが身体医学の限界ともいえます。
そして現在では、吸入ステロイドを使用して発作を抑え、「治すよりもコントロールする事を目指す治療」を導することが、身体医学の「喘息専門医」の仕事になってしまいました。ですから現在のガイドラインも対症療法で喘息をコントロールすることを目標にして作られています。
いつまでに治すのがよいのか
喘息の仕組から考えれば、6歳未満の子供の喘息は入学までに治しきる事をお奨めします。入学までに治してしまえば、喘息の体質そのものが作られずにすみますから、生涯にわたって再発する可能性が少なくなります。
小学生以上の喘息は次のような理由から、10歳から小学校卒業までには治した方がよいと考えています。
昭和30年代までは小児喘息は「入学すれば治る」といわれていました。そして確かに入学をきっかけに治っていく子供が多かったのです。小学校に入学しても治っていかない場合には自然治癒率は著しく低下し、成人喘息に移行する確率が高まります。
さらに、この自然治癒率が最近は低下しています。その結果、日本では過去10年間で小児喘息の患者さんは倍増しました。さらに思春期から20代前半までが、喘息が最も重症化しやすく死亡率も高まる時期になります。
また、気道のリモデリングは喘息発症後3年を経過した頃から始まり、成人喘息では約4割の患者さんに認められます。リモデリングが起きてしまうと喘息は完全には治せなくなりますから、遅くとも発症後3年以内には治療を開始することが好ましいといえます。
以上のような理由から、久徳クリニックでは、乳幼児の喘息は小学校入学までに、小学校低学年の喘息は10歳までに、小学校高学年から中学生の喘息は10歳から遅くとも15歳までに、大人の喘息は治療開始後(アフターケアも含めて)3〜5年で治しきることを目標としています。そしてこの目標の達成は決して困難ではありません。
治らない喘息もあるのか?
喘息が治らなくなるのは、次のような場合です。
第一に、全身性のステロイドホルモンを内服や注射で長期間使用し、体内のステロイドホルモン分泌能力が低下してしまった場合です。この状態を「副腎機能不全」といいます。
第二に、気管支のリモデリングが起きてしまった場合にも、完全には治せなくなります。
第三に、いろいろな事情で総合根本療法が実行できない場合にも治すことはできなくなります。この場合は「治らない」のではなく「治せない」「治さない」ということになるケースが多いようです。
治療方針についての具体的な考え方
現在日本では、年間3〜4千人の患者さんが喘息で亡くなっていますから、喘息を軽く考えるのはよくありません。
それでも、すべての患者さんが重症というわけでもありませんから、実際の治療に際してはいくつかの選択肢が考えられます。
代表的なものとしてはとりあえず次の3つがあげられます。
@調子が悪く苦しい時だけ治療する。
軽症の場合は「悪い時だけ薬でおさえて」と考えたくなるのは人情ですが、これはあまりお勧めできません。
軽い発作であっても、繰り返しているうちにリモデリングが進み難治化していくこともあります。また、中程度以上の発作が続いていても体が低酸素状態に慣れてしまうことがあります。こうなると、息切れはしますが安静時には苦しさを感じなくなりますから、患者さんが「調子は悪くない」と誤解してしまうことがあります。この場合は突然死に結びつくこともあります。
A生活療法は行わずに、対症療法だけで様子を見る。
喘息を「治す」事は考えず、吸入ステロイドなどを続けて「喘息をコントロールする」「リモデリングの発生を防ぐ」「喘息死を防ぐ」ことを目指します。
身体医学的な対症療法のみの治療法ですから薬を使い続けることになりますが、喘息を治すことを考えなければこの治療法が「最善」といえます。
ガイドラインでもこの方法が基本とされていますから、現在では大多数の「喘息専門医」がこの治療法を推奨しています。
久徳クリニックでも、総合根本療法を行わない場合にはこの治療法をお奨めしています。
B 3〜5年で「喘息を治しきる」ことを目指す。
久徳クリニックのお奨めプランです。総合根本療法によって喘息の根治を目指します。
ここでは例として3つの選択肢を挙げましたが、自分自身の喘息をどのように治療したいのかという「治療の目標」を決めるのは実は私たち医師ではなく患者さん御自身なのです。根本的に治しきるのか、ステロイド吸入を用いてコントロールできればそれでよいのかという基本的な治療方針の決定権は医師ではなく患者さん側にあります。
喘息治療を進めるに当たっては、この点についてよく検討し将来の見通しについても考えておくことが大切であると私たちは考えています。