日本アレルギー学会
喘息の治療の基本

日本アレルギー学会・
ガイドライン



 


Q&A
 
■ドクター久徳への質問


アレルギー・喘息には本当にストレス(心因)が関わるのでしょうか?



■お答え     院長 久徳重和



アレルギー・喘息と心因の関わりについて

アレルギー、特に気管支喘息では古くから心因の関わりが指摘されています。ヒポクラテスは「喘息になったら怒りを鎮めよ」と言っていますし、19世紀後半以降は近代医学の目で「喘息と心因」の研究が進められています。
1868年にTrousseau,A.は馬小屋の飼料の粉塵で起こる自分自身の喘息発作が怒りの感情(使用人の盗みが発覚)で増強したことを述べ、1886年にMackengie,J.N.は、バラの花粉で喘息発作が起こるという婦人が造花のバラでも発作を起こしたことから、暗示または条件付けによっても喘息発作が出現することを指摘しています。
1923年にMoos,E.は、アレルギー性喘息であっても心理療法を行うことによって、アレルゲンにさらされても発作が起こらない状態をつくられることから、喘息発作の出現・消失には心理的因子の関わりが重要であると述べています(桂戴作「情動のしくみと心身症」日本ロッシュ,1974より引用)。

また、Bakwin,H.はその著書「問題児治療大系」(1966)で次のような報告をしています。
「・・・Longとその共同研究者は、気管支喘息の小児は、しばしば病院に入院することにより、治療を変えなくても患者の苦痛は消失し、また同じように、しばしば自宅に帰ると喘息症状が再発することを観察し、考察を加えている。
病院に入って症状が消失するのは(抗原である)家屋塵さらされることから逃れたためであると、アレルギー医が一般に主張している見解をテストするため、この観察者らは電気掃除機中の家屋塵を集め、これを病室内にスプレーし、扇風機により家屋塵が室内を循環するようにした。
18例の小児にこの方法で(抗原としての家屋塵に)さらさせた。14例の小児にはアレルギーの家族歴があり、8例では家族の両家系にアレルギーの家族歴があった。14例は家屋塵に対して皮膚反応が陽性であった。病院で家屋塵を吸入させられた18例中1例も、臨床的にも聴診的にも呼吸器の変化は見られなかった。
2例の小児では患者の家庭で99%まで空中の微細な物質を除去しうる電気除塵機を用いたが気管支喘息の症状を(この方法では)消失させることができなかった。
筆者らは、これらの所見を総合して、家屋塵は気管支喘息を作るのに十分な原因とは考え得ないと言う結論を得た・・・」。

Longのこの実験は不安とアレルギーと喘息発作の間には、複雑な関わりが存在することを明示したものだと私たちは考えています。
気管支喘息においては、@不安はアレルギー反応を促進する可能性がある、Aその不安を取り去ることによってアレルギー反応(アレルギー反応による喘息発作)を完全に防止することも不可能ではない、といえるのです。

わが国の心身医学の創成期に活躍された、桂先生、中川先生も非常に興味深い症例を報告されています。その引用を以下に掲載します。

桂 戴作「心身医学から見た食物アレルギー」より引用
・・・次のような症例があった。40歳の女性である。六甲山の上で風邪をひいた。ケーブルカーで山頂から降りてきて、茶店でチョコレートを買って食べた。そうすると苦しくなってきた。自分はチョコレートを食べると喘息になるらしいと思ってしまった。
以来この人はチョコレートを食べると喘息状態として呼吸困難が続いた。
我々の外来を訪れて精密なアレルギー学的検査を受けた。その結果はいずれも正常の範囲内にあった。六甲山頂に行ったときの最初の発作は風邪によって誘発させられたものであって、チョコレートによるものではないと我々は考えるようになった。
そこで透明のカプセルを用意してその中にコーヒーの粉末を入れて、これはチョコレートである、これを食べるとあなたは喘息が起こる、その度合いを検査したい、と彼女に告げた。かなり苦しいでしょうかと聞くので、ここは病院なので喘息が起こり始めたらすぐ発作を止めてあげられるから、喘息が起こってもだいじょうぶ、と答えた。こうして彼女に一カプセルを飲ませてみた。
10分を過ぎたころから、少し苦しくなってきたという。それでは測定してみようといって、一秒率(15%以上低くなったとき、気道が狭くなったと判定する)をはかってみた。
このときカプセルを飲んでからすでに20分を過ぎていたが、一秒率は16%低下していたのである。軽度ながらも喘息状態が発症していたのである。しかし実際に飲んだのはコーヒーであった。
チョコレートによって喘息がおきると本人が思い込んでいたことが、彼女に喘息を起こさせた原因である。

サバを食べるとじんま疹と下痢症状の発生する青年があった。これもアレルゲンテストをしたが、いずれもかなり発赤が赤く大きくなるけれども、サバだけが著名な発赤をきたすというわけではない。その他、アレルギーを思わせる所見にも乏しい。
ある日のこと、誘発試験をして試してみたい、詳しいことがよくわからないので、実際にサバのエキスを入れたバリウムを飲んでもらって試してみたい、と彼に告げた。彼はかなり恐怖の状態であった。そして、検査の日、朝食を抜かせ、サバのエキスの入っているバリウムのコップを持たせて、X線室に誘導したのである。
実は、コップの中身はバリウムだけである。しかし、このバリウムが胃に入ってくると、彼の胃の働きは俄然早くなってきた。十二指腸、空腸の働きも活発になってきた。そして、20分くらいたったころから、かゆいといいはじめた。胸から腹にかけてじんま疹が発生してきたのである(中川俊二による)。
この例では、全くサバはたべていないわけである。しかし、彼には明らかに膨疹を伴ったじんま疹ができ上がったのである。
この二例から、暗示という心理的な機序によって食物アレルギーの症状が発生することが理解できたと思う・・・。

中川俊二「食物アレルギーの診断と治療の実際」より引用
・・・20歳の女性である。8年前から青魚に対する異常反応があり、とくに4年前からひどくなって、じんま疹が出たり、悪心、嘔吐、?囃(そうざつ)を訴えたりした。家庭では姉が同様な症状を呈し、母にもアレルギー疾患があった。青魚に対する皮内反応は、イワシ12×11(膨疹)・25×20(発赤)、サンマ11×10(膨疹)・25×21(発赤)と、ともに陽性に現れた。治療としては摂取による減感作療法を考え、魚(サンマ)の微量を加工して本人にはわからないようにして食べさせた結果でも、やはり悪心、嘔吐、?囃(そうざつ)、じんま疹などが出現して翌日まで続いた。治療は自律訓練法(心身の安定、リラックスを目標とした訓練法)と暗示療法を兼ねて、消極的に恐怖心を除くのでなく、積極的に好きになるように誘導した。治療の途中、イワシ、サンマを経口的に投与しても、しだいに症状は起こらなくなった。治療後23日目の皮内反応はあまり変化は見られなかったが、その後この治療を強力に推し進めたところ、治療後42日目には皮内反応の大きさが変化して、イワシ5.5×5(膨疹)・9×9(発赤)、サンマ7.5×7(膨疹)・12×11(発赤)と、ともに陰転化した状態が見られた。その後本人の努力によって、638日後の追跡調査でも皮内反応の陰性を続けることができた。
この症例は心理的次元での減感作を強力に試みたところ、過敏状態は起こらなくなり、皮内反応も減弱した症例である・・・。

桂先生の調査では気管支喘息の60.9%に心因の関わりが認められ、われわれの調査でも小児喘息の81.9%に心因が関っていました。この心因へ対応することは喘息治療上きわめて有用な取り組みになります。
喘息に心因が関わっているかいないかの最も簡単な判別法は、「発作の時に吐く息が苦しいか吸う息が苦しいか」をチェックしてみることです。喘息は基本的には「吐く息が苦しくなる」病気なのですが、心因が絡んだ喘息では「吸う息」が苦しくなります。
発作時に吸う息が苦しければそれだけで「心因が関わっている」と考えられます。もちろん他の因子が関わっている可能性も否定できませんし、過呼吸なども除外しなければなりませんが、「喘息であって吸う息が苦しい」という場合には「心因は間違いなく関わっている」といえるのです。









■ドクター久徳への質問

ぜんそくとはどんな病気ですか?治療法も併せて教えてください。

先日、知り合いの25歳の男性が、ぜん息にかかりました。2週間ほどで退院できたのですが、それまでは、ぜん息という病気に縁がなく、小児ぜん息の病歴のない人が、大人になってからぜん息になる可能性があることすら知りませんでした。
子どものぜん息は治療が困難だという話を聞いたことがあるのですが、大人のぜん息も治りにくい病気なのでしょうか。最新の治療法についてもお教えください。
また、ぜん息はどういう原因で起こることが多いのでしょうか。小児ぜん息にかかった人、あるいは大人になってぜん息になった人では治療法が違うのでしょうか。予防法と併せてお聞かせください。

相談者/Fさん(東東京地区)



■お答え     院長 久徳重和


ぜん息の歴史が相当に古いことをご存知でしょうか。ぜん息は医聖と称されたヒポクラテスが活躍していたギリシア時代から、記録に残されています。

これだけ歴史が古いということは、ぜん息を撲滅できていないことを意味しているのですが、事実、今でもぜん息の患者さんはけっして少なくありません。

気管支喘息の有病率は、調査によって多少異なるのですが大体4〜7%と言われています。
軽症を含めてですが、それでも100人中、およそ4〜7人の割合でぜん息の患者さんがいるのですから、少ない人数とはいえません。

しかも、ぜん息による死亡者は平成19年で年間2500人ほどを数えます。同年の交通事故死亡者が5587人(警察庁発表の事故後24時間以内の死亡者数)ですから、交通事故の死亡者の約半数の方がぜん息で亡くなっているのです。

小児ぜん息は90%が6歳までに発症します。3歳までが発症のピークです。低年齢の発症が多く、3歳過ぎの患者さんの8割には、ダニのアレルギーが認められます。

小児ぜん息はおよそ半分が大人になるまでに自然治癒します。この数字は報告する医師により多少差があり、30%は自然治癒するという医師がいる一方で、70%という数学をあげる医師もいます。
平均すれば、約半分は大人になるまでに自然に治ると考えてさしつかえないと思います。

一方、典型的な成人発症型のぜん息は、発症のピークが40代で、以下、30代、50代の順になっています。ダニアレルギーの陽性率は2割程度と低く、成人のぜん息は自然治癒しにくいのが一つの特徴です。

小児ぜん息と成人のぜん息とは基本的には同じ病気です。
ただし、現実には小児ぜん息は主に小児科で、成人のぜん息は内科で診察されることが多く、アレルギー陽性率とか、自然治癒傾向、死亡率などの点で差異があるため、別々の病気と考えられることがありますが、基本的には、同じ病気であると考えていいと思います。

■「わからない病気」と言われているぜん息
ぜん息の初期症状はカゼによく似ています。鼻はムズムズして、クシャミ、鼻水が出ます。発作性のセキ、声が枯れるなどの喉の異常も現れます。春と秋に現れることが多く、これらの時期に発熱がないのに、このような鼻や喉の異常が続くようでしたら、早めに専門医の診察を受けることをおすすめします。
ぜん息の原因は、心と体とアレルギーの3つの要素が絡んでいると私たちは考えています。ヒポクラテスは「ぜん息になったら怒りをしずめよ」と言っていますが、これはぜん息にストレスが関係していることを見抜いていたと思われる事実です。

長い間、ぜん息は「原因不明の疾患」とされてきましたが、日本では昭和30年代後半から、アレルギーの研究が小児科におけるぜん息研究の花形部門となり、抗アレルギー剤などの開発により、ぜん息の根本的な治療は可能になったといわれました。小児科の医師の中に、いまだにぜん息はアレルギーだから、アレルギーの治療をすればよいと主張する人が多いのはそのためです。

しかし、昭和60年、あるアレルギー専門の先生が衝撃的なデータを発表しました。それによると、180人の子どものぜん息患者について調査したところ、平均12・3年かかって39%の子どもが治っているというものでした。要するにアレルギーの治療をしても自然治癒よりも治癒率を高めることができなかったという事実が判明したのです。

一方、大人のぜん息はいまだに「原因不明の病気」とされています。平成18年の厚生省のガイドラインでも「ぜん息を治すのは困難な現状である」と記載されています。そしてステロイドによる吸入療法により発作をコントロールする治療が推奨されています。確かにぜん息を治すことを考えないのであれば、この治療法が最善といえます。

■「自分で直す」意識を持とう
現在のわが国では大人のぜん息は「原因不明で治らないが、気道には慢性の炎症があるので」との前提で根本的に治すことはあきらめ、とりあえず正常な日常生活が営め、ぜん息で死亡することをさけるために、吸入のステロイド剤でコントロールすることが治療の中心になっています。子どもの場合はステロイド剤の使用をためらう小児科医もいますが、すでに説明したようにアレルギー中心の治療も行き詰まっているのが現状です。

ぜん息は単なる気管支の病気ではありません。そこには心理的要因や生理的要因に由来する自律神経〜副腎機能の乱れやすさが大きく影響しているのです。しかし、そこまでをみつめる視点が現在のぜん息治療には欠けているのです。

昔から、戦争の出征中はぜん息発作が止まるといわれてきました。小児ぜん息も、昭和30年代までは小学校に入学すれば「自然に治ってしまう」例が多かったのです。「生きるか死ぬかで必死なときや、活動的でやる気になっているときには、ぜん息発作は起こりにくい」のです。反対にいえば、ぜん息は心身の活性が落ち込んだときに起こりやすく、事実、定年退職がきっかけでぜん息になるとか、子育てが終わって「生活のはり」をなくしてから発症するなどの例もあります。
このことは、ぜん息治療の大きなヒントになります。ぜん息を単なるアレルギー性の病気だとか、気道の慢性炎症による病気だとかのように「単一の原因」により引き起こされる病気とは考えず、心理・身体面までを含めた「生活習慣病」ととらえて総合的な対策を考えることが必要なのです。患者さん自身の生活全体を兄つめ直すことによって、ぜん息の治療と予防は十分可能です。その意識を持って専門医のアドバイスを守ることがぜん息治療には欠かせないのです。〈談〉


■喘息の治療の基本
リンク先 : 日本アレルギー学会 (日本アレルギー学会・ガイドラインより)


喘息は、遺伝因子と環境因子が絡んだ病因が不明な病気です。喘息体質と一括されていますが、いまだ根本的に治癒させる治療法はありません。現在、最善の治療は、気管支の炎症を起こして気管支を収縮させる原因やアレルゲンを除去すること、薬物療法により気管支の炎症を抑えて気管支を拡張し、気流制限と過敏性を改善して日常生活と肺機能を正常化し、患者のQOLを高めることです。一方で、この体質を変えようとする治療法も昔から試みられてきました。その一つがアレルギー性喘息に対する減感作療法です。アレルゲンを定期的に患者に注射し、患者のアレルゲンに対する反応を変調させること(体に一種の慣れを作る)により喘息を改善するという治療法ですが、すべての患者に有効なわけではありません。最近、人の全遺伝子の解読が終わり、その塩基配列が発表されたところですが、多くの遺伝子が関係している喘息体質の実態が明らかになれば発病を予防したり、体質そのものを無くする治療法が生まれるかもしれません





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